ゆびさきちまちま

 

　何がかわった、という気分もしなかった。
いつもどおりの帰り道。雨が降るで寒い海岸通の道を、いつもと同じようにスケートで走って帰る。

　暗い空。

　もう、その上にある蒼の色に辿りつきたいとは思わないけど、その色が見えないのはさみしかった。

　（泣いてる）

　誰が？

　わからないけど、なんだか不安でいつもより飛ばして帰る。
　寒いのはきらい、独りぼっちもきらい。
　叱られるのだって、きらい。

（だから、いいんだもん）

　ちゃんと私らしい。
　雨の中でも、いつもと同じに走って帰る。

　変わらない。何も。

　ただ、いつもよりも寒くて雨が―――。

（あ……）
　
　滑る。

　人を避けようとして、砂浜に下りる階段の上に飛び乗った瞬間、足元が思わぬ方向に滑ったのがわかった。

　くらり。

　奇妙な失望感とともに体勢が崩れて―――とても懐かしくて怖い感覚が身を包む。

（落ちる）

　思考と感情が一気に押し寄せて、受身を取る暇もなく下の砂浜にすごく無様に肩から落ちた。下が砂じゃなかったら、きっともっと情けない怪我をしてたかもしれなかった。

「……ぅ」

　のそのそと起き上がって上の歩道を見る。
　馬鹿みたいに転んだのを見られてはなかったみたいだった。

「……」

　足がなんだか痛くて、よく見たら割れた貝殻の破片で小さく切ってた。にじむ血と、はりついた砂ですごくみっともない姿だと思ったら、なんだか涙がでた。

「ぅ…………えぇぇぇぇんんっ」

　一度涙が出たらおしまいだった。
　私は、車の音と大きくうねる波の音があるのをいいことにわんわんと大声で泣いた。
　砂で汚れた手で顔をぬぐったら、ますます砂まみれになって。目に塩がしみるから、ますます大声で泣き続けた。

（ごめんなさい）

「いたぁぁぁいぃ～～～」

　泣いている口実だけを口にして。

（今まで、守っていてくれてありがとう…ごめんなさい）

　どれだけ泣いても、失ったものは取り戻せないのだと気がつくまで。
　暗くなってゆく中。馬鹿みたいに泣き続けた。

　ずっと、ずっと。