ゆびさきちまちま

　羽根は、じーっと見つめていた。

　誰をって。

　自分の横に座っている、同級の青年をだ。

　といっても、別に熱い視線だったわけでもない。
　まぁ、集中力が熱線になるなら、穴ぐらいあけてたかもしれないが。とりあえず甘さのカケラもない、真剣な目で自分の隣に座った人物を見ている。

　影太刀シュリケン丸。

　真紅のニンジャ衣装に身をつつんだ、目元だけはムダにいけてると評判の人物であり。羽根のニンジャの師匠でもある。
　ちなみに目の前には、普通の黒スーツでありながらもごついゴーグルで目元を隠した山下駆。その隣には、なでつけた銀髪を首後ろで結んだ、紋付袴が異常に似合うメガネの男子がいる。

　（ああ、私ってまともだなー…）

　にわかに羽根は脳内お花畑で、あははうふふと微笑みながらちょっぴり現実逃避する。
　だってどー考えても、店員さん避けてるもん。このテーブル。
　日常を学園で生活していると希薄になりがちな｢常識｣を目の当たりにして、世界結界のありがたさを思い知る。むしろもうちょっとがんばって、このニンジャを別の何かに見せてやってとかちょっぴり思う。思うけど顔にも口にも出さない。はねこも大人になりました。
　それはさておき。

　（気になる……）

　フライドポテトをつまみながらも羽根は、歓談しつつどんぶりを手にしている傍らの師匠から目を離さない。

　（気になる……気になる！絶対！）

　だって、さっきから覆面を脱いでいないのに！なぜか！どんぶりの中身が減っているのだ。

　（一体いつ、どうやって！どんな手段で！）

　というわけで、冒頭の熱視線に戻るわけだ。


　


　全員での乾杯をすまし、それぞれの進路を語る。もしかしたら若者らしい夢見がちで実のない、年長者が見れば苦笑するようなものだったかもしれない。
　けれど若者特有の熱っぽさで、それは真摯に語られ。許されて飲む初めてのアルコールの力も借りてか、ほんの少しだけ壮大で、無謀で、勇気に溢れた将来への夢の話たちだった。
　と。

｢あ…はねこのカマンベールチーズフライがっ」
　目の前にあった好物のカマンベールのフライが、すでにないことに気がつく。大して飲んでもいないくせに色の白い羽根は、甘いカクテルのせいですでに顔を赤くしている。
誰が食べたのっ、と本日成人式を迎えたにもかかわらず、大人気なく睨んだ羽根に鑑三郎と駆が首を振る。
｢ニンジャたるもの、いついかなるときも油断は禁物でござる｣
　しれっと答えたのはシュリケン丸で、羽根が目を丸くする。だからいったいいつ食べたんだってば。
　と、よく見ればビールのジョッキの中身も減っているし。
　思わず同卓三人がじぃぃぃぃっとシュリケン丸を見る。メガネの、ゴーグルの、暁色の目に見つめられて真のニンジャは涼しげにいった。
　｢拙者の顔に何かついてござるかな｣
　｢｢｢覆面がついてる｣｣｣
　低音高音織り交ぜた３重奏で言葉がはもった。



　背後：この辺で終わりにしとこw
　絶対師匠は、瞬きの瞬間に覆面とってご飯食べているんだと予想
　恐るべし！ニンジャ！ｗ

　って、あのジョッキの中身。ウーロン茶だったらどうしようw

　立見くんと師匠の許可を得て公開！
　ぬぬぅ、覆面で食べるのは秘中の秘らしい！気になる！w