ゆびさきちまちま
トミーウォーカーのPBW「シルバーレイン」内に存在するキャラクター「雪村・羽根」のブログです
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言葉。
欠片。
たくさんすぎて。
わたし。
の、中を切り刻む。
心を。切り刻むの。
ああ、ああ。
おかあさん、おとうさん。
『どうして私を、連れて逝ってくれなかったの』
……たすけて。
異国の病院で目を覚ました。
私は傷だらけで、郊外の森の中に倒れていたらしい。
らしい、というのは。私は現地の言葉がぜんぜんわからなかったし。パニックしていて当時のことを覚えていないから。
ただ、少し落ち着いて。幼いながらのなけなしの理性で、両親の安否を。自分のことを訴えたが…何も、伝わらなかった。
涙ながらに、言葉を紡いで。家に帰りたい。お父さんとお母さんは?とたずねても、痛ましい顔をして首を振る人々。
まさか、離れた場所に墜落した飛行機の乗客。しかも日本人の子供が、こんなところで生きてるなんて露ほどにも思わなかっただろうから、仕方がないのかもしれないけれど。
でも…私は絶望した。
一瞬にして、違う世界に放り込まれたように。自分の悲嘆が。恐怖が。全てが。
狂った子供を見る瞳で、諦められていくのに絶望した。そうして…だんだん自分を見失って。何もかもが虚ろにぼやけていきそうな中。
偶然だった。
日本のドラマが、テレビに映った。
……知ってる言葉が、明確に頭に流れて。そして。私は叫んだ。叫んだのだと思う。混乱しすぎていてよく覚えてない。
それがどういう流れになったのかは、私にもわからない。けれど、ただ、私が「日本人である」ことが明確になった瞬間だった。
多大な幸運によって、大使館に連絡が入り。
そして、突然。奇跡の生還者として見いだされて。
嵐のような喧騒と共に、日本に帰った頃には両親のお葬式はとうに終わってしまっていた。
死んだと思われていた私には、もう帰るべき家は無く。ぬいぐるみや、本さえも捨てられたりしていて…何一つ手元には戻ってこなかった。
父の実家は雪の降る北国で。
黒い服に雪が落ちる。
―――雪が降っていた。
やっと歩けるようになって、祖父母と一緒に両親に会いにいった。
灰色の、冷たい石。降り積もる雪。黒い服。雲の色。モノクロの世界。
(これがお父さんとお母さんだって)
―――そんなの、嘘。
涙も出ない。
言葉が出ない。
確かに、事故の直後も話していたはずなのに、いつからか話そうとしても言葉が詰まってしまって。言葉が、出なくなってしまっていた。
お医者様がいった。喉に異常はないから、ゆっくり休んで、気持ちの整理がつけば話せるようになりますよ。
おじいちゃん、おばあちゃん。私お菓子が欲しい。お水が欲しい。
いつものお店にあるの、水色の飴なの。なめるとしゅわってするの。
伝わらないよ。
私のご本は?お父さんが買ってくれた『遠いのばらの村』は?海の館のひらめ。おうちに帰りたい。海の近く。水族館行きたい。
お母さんに会いたい。ママに会いたい。お洋服がないの。お気に入りの、ピンクの毛糸の帽子がないの。お母さんなら、どこにあるか知ってるはずなの。
おうちに帰りたい。帰りたいよ。
咳がでても一人なの。眠れないの。
このお墓にお父さんとお母さんがいるんだって。
(嘘!嘘、そんなの嘘!)
二人は空の向こうに逝ってしまった。
私は知ってる。あの青い青い空の向こう。永遠の夏に連れて行かれてしまった。
私は生きている。お母さんの呪文のおかげで生きている。
『ドウゾ神様、コノ子ダケハオ助ケクダサイ』
灰色の世界。黒いスカート。涙が出ない。声がでない。
全部の言葉が私の中で私を切り刻むの。
「お前が、生きているのも二人のおかげだねぇ。感謝しなきゃねぇ。きっと神様がお守りくだすったんだよ」
……たすけて。
パパとママの願いなら、私。死ぬことはできない。
灰色のお墓。黒いセーター。暗い空と雪。
たくさんの言葉に切り刻まれて、声が出せない私。
寒いと体中が痛い。背中の傷が痛い。足も、手も。壊れてしまった何もかもが痛い。
五年、病院暮らしが続いた。
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