ゆびさきちまちま

　…その報告書があがってきたのは、羽根が学校近所のお気に入りのパン屋さんで買った、お昼ご飯のグラタンパンを口に入れようとした時だった。

　

　いや、つまり、ケータイメールがそれを知らせたわけなのだけれど。


　とにかく、ここのグラタンパンといったら。とろとろのえびグラタンをピロシキのようにパン生地で包みパン粉をつけてカリカリに揚げているのだ。
　さくさくの食感と、とろりとしたグラタンのホワイトクリーム。そしてカリカリのパンの上には、甘いお好み焼きソースがうっすらかかっている。
　大きさこそ、小ぶりだが。ひとつで十分お腹が一杯になる。そして何より安価であり、ここしばらく、まじめに自分でお弁当を作ってきたおかげでご飯食ばかりだった羽根にとって、久々のパンだった。

　…報告？なんですか、それ？

　まだ温かなそれを口に入れると、さくっとかかりっとか。そういう音がします。おいしい。
　別に現実逃避してませんよ？本当に。てゆか上にかかった甘いお好み焼きソースが絶妙です。えびうまーいえびうまーい。
　
　まぐまぐまぐ。
　りんごジュース、ごくごく。

　というわけで、このあたりでやっとケータイの画面を開きました。
　メールボックスを開きます。何気ないそぶりで、報告書を開き。

　『　舞踏によってトーテムの力を導きだすシャーマン、アリエ』
ぎゃーーーーーーーーーーー！！！！
　
　……あわててケータイを閉じる。見れない、これ以上見れない！これ以上見たらＳＡＮチェック必要！ぜったい！
　思わず叫んだ羽根の声に、周囲で食事をしていた学生たちが振り返る。傍らでコンビニのおにぎりをかじってた友人が、あわてて羽根を見た。
　「…ユキちゃんどした？」
　「気にしないで！白昼夢を見ただけ！！」
　「白昼夢って。……なんかへんなめーるでもきたの？」
　「違う違う違う。ぜんぜん違う。ちょっと寝ぼけた！いま！」
　「いまって、なまら幸せそうにどんぐりのパンかじってたっけ…虫でも入ってたかと思った」
　「入ってない！おいしかった！大丈夫！」
　ケータイを握り締めながら友人たち（能力者ではない）に言い訳をする羽根。


　そんなこんなで羽根は。
　今夜は、自分のお部屋に篭城しようと心に誓った